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Channel: 高村光太郎連翹忌運営委員会のブログ
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『宮中歌会始全歌集 歌がつむぐ平成の時代』。

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いよいよ今日で「平成」の幕が閉じます。そこで、それっぽい内容の新刊書籍をご紹介します。 

宮中歌会始全歌集 歌がつむぐ平成の時代

2019年4月19日  宮内庁編  東京書籍  定価1,700円+税

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新年を祝う宮中の伝統行事「歌会始」。去る1月16日、平成最後の歌会始が開かれた。
つねに平和を願い、国民の心に寄り添ってこられた天皇・皇后両陛下。平成時代の歌会始のすべての和歌をとおして、両陛下のお気持ち、国民の思いをたどります。


毎年、1月10日前後に皇居宮殿松の間で行われる宮中歌会始の儀。天皇皇后両陛下をはじめとする皇族方、毎年選ばれる召人(広く各分野で活躍しつつ短歌に親炙している人々から選出)、一般からの詠進歌を選ぶ選者の皆さん、詠進歌で入選された一般の方々などが集い、それぞれの作歌が披講されます。

平成の間の宮中歌会始の儀で披講された全ての短歌を集めた一冊です。といっても、平成元年(1989)は昭和天皇の服喪のため中止、同2年(1990)は、宮中歌会始としてではなく、「昭和天皇を偲ぶ歌会」として2月の開催だったため、それも除かれ、同3年(1991)から今年までのものとなっています。

平成25年(2013)の宮中歌会始の儀、一般からの詠進歌入選作で、福島県郡山市の金澤憲仁さんの作歌が、光太郎詩「あどけない話」(昭和3年=1928)をモチーフにしたものでした。

安達太良の馬の背に立ちはつ秋の空の青さをふかく吸ひ込む

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当時報じられた金澤さんのコメント。

「(高村光太郎の)『智恵子抄』にうたわれたように、安達太良山の上には福島の本当の空がある。津波の影響や原発の問題がある中、福島のよさを知ってもらおうと歌を作りました」。
 
両陛下からは「ご苦労が多かったですね」とねぎらわれたそうです。

これ以外には光太郎智恵子を直接のモチーフとした作歌は含まれていないようですが、通読してみて改めて平成という一つの時代がうかがい知れるな、と思いました。

昨今はやりの平成回顧ものの中でよく指摘されていますが、やはり大きな自然災害の多かった30余年で、そうした内容の作歌が目立ちます。

火をふきて五年(いつとせ)すぎし普賢岳人ら植ゑたる苗みどりなす
常陸宮正仁親王 平成8年(1996)

大地震(おほなゐ)のかなしみ耐へて立ちなほりはげむ人らの姿あかるし
東宮妃雅子殿下 平成9年(1997)

「げんきです やまこし」といふ人文字を作りし人ら健やかであれ
憲仁親王妃久子さま 平成28年(2016)

津波来(こ)し時の岸辺は如何なりしと見下ろす海は青く静まる
 御製 平成24年(2012)

難(かた)き日々の思ひわかちて沿岸と内陸の人らたづさへ生くる
秋篠宮文仁親王妃紀子さま 平成24年(2012)

巻き戻すことのできない現実がずつしり重き海岸通り
選歌 福島県 沢辺裕栄子さん 平成24年(2012)

「あつたよねこの本うちに」流された家の子が言ふ移動図書館
選歌 千葉県 平井敬子さん 平成27年(2015)

らふそくの光が頼りと友の言ふ北の大地を思ひ夜更けぬ
寛仁親王長女彬子さま 平成31年(2019)


それから、やはり平成史が凝縮された歌の数々。冷戦終結、少子高齢化、戦後五十年、ミレニアム、イチロー、そして御退位……。歌会始は新年を言祝(ことほ)ぐものですので、基本的に政治の混迷や重大犯罪などは題材にはなりませんが。

人々をへだてし壁はくづれたりベルリンに響く歓びの歌
皇太子殿下 平成7年(1995)

卒業のうたはひとりのために流れ今日限り閉づ島の学校
選歌 長崎県 溝口みどりさん 平成7年(1995)

被爆せる樟青々と天に伸び半世紀経し夏を輝く
選歌 千葉県 山之内俊一さん 平成11年(1999)

あたらしき時世(ときよ)のごとくひとむらのあしたの雲をながくみまもる
選者 島田修二氏 平成12年(2000) 

山川も草木も人も共生のいのち輝け新しき世に
召人 上田正昭氏 平成13年(2001)

大記録なししイチローのその知らせ希望の光を子らにあたへむ
正仁親王妃華子さま 平成22年(2010)

今しばし生きなむと思ふ寂光に園(その)の薔薇(さうび)のみな美しく
皇后宮御歌 平成31年(2019)


さらには召人や選者の皆さんの変遷にも、感懐を覚えました。召人では、故・大岡信氏(平成16年=2004)、選者では岡井隆氏(平成5年=1993~平成26年=2014)、三枝昂之氏(平成20年=2008~)など、光太郎に関する御著書等おありの方がいらっしゃるもので。山梨県立文学館館長であらせられる三枝氏は、連翹忌にもご参加下さっています。

また、平成9年(1997)の召人だった女流歌人の故・斎藤史氏は、昭和4年(1929)、光太郎が審査員の一人として参加、朝日新聞社において開催されたミスコンテスト「現代女性美」審査会で「女性美代表」に選ばれた8名のうちの一人でした。


そんなこんなで「平成」も今日で終わり。明日からの「令和」、どんな時代となっていくのでしょうか。


【折々のことば・光太郎】

夜の星空の盛観はまつたく目ざましいもので、一等星の巨大さはむしろ恐ろしいほどです。星座にしても、冬のオライアン、夏のスコオピオンなど、それはまつたく宇宙の空間にぶら下つて、えんえんと燃えさかる物体を間近に見るやうです。

散文「みちのく便り 一」より 昭和24年(1949) 光太郎67歳

7年間の蟄居生活を送っていた、岩手花巻郊外旧太田村の山小屋で見る星空。「オライアン」はオリオン座、「ソコオピオン」は蠍座です。いわゆる光害とは無縁のそれは、まさにこのようなものだったのでしょう。

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